デイリーコメント – 米雇用統計が直近の米ドル高を試すかに注目

投稿日: 2025年8月1日21時13分(JST)投稿. 詳細を読む JP Blog
  • トランプ大統領の関税発表で、市場は再びリスクオフ反応
  • 米ドルは安定も、米株式は大手ハイテク企業の好決算にもかかわらず低調
  • 米雇用統計に注目、NFPは11万人増加の予想
  • 堅調な米雇用統計への過剰期待から、予想を下回る結果は市場が大きく反応するリスクも

市場の注目は関税に

今週はFOMC会合や複数の大手ハイテク企業の決算発表などの重要イベントが続いたにもかかわらず、市場のボラティリティは昨日まで低水準にとどまっていました。この広がっていた楽観ムードは見当違いだったことが判明しました。というのも、トランプ大統領が8月1日の関税発動の期限を前に、再び注目を集める発言をしたからです。

EUと日本との貿易協定を締結した後、トランプ大統領は非協力的と見なされる国々に焦点を移しました。新たに改訂された相互関税のリストが公表され、米国とまだ合意に至っていない殆どの国々に対する関税率は、4月2日に発表されたものよりも引き下げられました。

しかし、いくつか顕著な例外もあります。製薬業界が大きな割合を占めるスイスには39%の関税が課されるほか、カナダはカーニー首相がパレスチナ国家を承認する意向を示したことに「代償」を払う形となり、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)対象外の製品に対して35%の関税が適用されます。新たな相互関税は、カナダを除き8月7日から発動され、カナダに対しては本日から適用されます。

一方、最大の課題は中国です。米中間では関税一時休止の期間を90日間延長することで再び合意しましたが、包括的かつ完全な貿易合意には依然として達していません。さらに、異なる理由で高関税の制裁を受けているブラジルとインドを加え、トランプ大統領は医薬品など他の分野にも標的を広げる意向を示しており、昨日製薬大手17社に書簡が発送されました。そのため、上述した国々がトランプ大統領の要求を受け入れるまで、新たな対立が起きる余地は十分に残されています。

市場はリスクオフ反応も米ドルは安定

米ドルは最新の関税関連のニュースに対して大きな反応を示していないものの、昨日、リスク選好度は大幅に後退しました。S&P500指数は直近の上昇分を急激に失い、好調な米決算報告によるポジティブなムードは反映されませんでした。マイクロソフトとメタの好決算に続き、アップルとアマゾンもそれぞれの1株当たり純利益(EPS)および売上高の予想を上回りましたが、関税による不透明な見通しを強調しました。こうした動きにもかかわらず、米株価指数は7月をプラス圏で終了しました。中でもナスダック100指数は2.4%の上昇となり、この上昇を牽引しました。

一方で、暗号資産は今週も引き続き圧力を受けており、ビットコインは11万5千ドル付近を推移しています。注目されていた米国の暗号資産に関する報告書は、米政権が暗号資産を主流化する姿勢を確認する内容で、大きなサプライズはありませんでした。特筆すべきは、今週の不安定な動きにもかかわらず、ビットコインは7月に8.3%上昇したものの、アルトコインの勢いに隠れてしまった点です。前月比でイーサリアムは49%、XRPは33%上昇しました。

注目すべきは、昨日のリスクオフ反応からゴールドが恩恵を受けられなかったことです。本稿執筆時点では、ゴールドは3,300ドルを下回る水準で推移しています。ゴールドは引き続き、3,260~3,440ドルの最近のレンジ相場が続いており、直近の米ドル高の影響も受けて、苦戦しています。

 本日の米雇用統計は、9月のFRB利下げ観測を高めるかに注目

現在の関税による不透明感は、パウエルFRB議長が「関税問題の行方が落ち着くまで忍耐強く対応する」と強調した姿勢をある程度裏付けるものとなりました。 この関税による不透明感に続き、堅調な第2四半期の米GDP報告と予想を上回る米PCEインフレ指標の発表を受け、市場の関心は本日の重要な米経済指標に移るでしょう。

エコノミストたちは、非農業部門雇用者数が11万人増加すると予想しており、そのうち民間部門では10万人の増加が見込まれています。しかし、水曜日の堅調なADP雇用統計と、好調な週間新規失業保険申請件数が、市場の期待をやや押し上げています。本日の非農業部門雇用者数が予想を上回る結果となれば、これが米ドルを押し上げる可能性があります。言い換えると、もし予想に反して低調な結果、特に雇用者数の増加が10万人未満にとどまった場合、市場に大きな影響を与える公算が大きいということです。

米国のインフレ率が目標を上回っている現状で、9月のFRB利下げ観測を本格的に再浮上させるには、米労働市場の明確な悪化が必要です。したがって、本日予想されている失業率の4.2%への小幅な上昇だけでは、不十分かもしれません。着目すべきは、FOMC会合から2日が経過したにもかかわらず、水曜日に利下げに票を投じたウォラー理事やボウマン副議長を含む、政策当局者からの発言がまだ何も出ていない点です。