デイリーコメント – スタグフレーション懸念で米ドルは安値圏に留まるも、米株価は反発

投稿日: 2025年8月6日20時20分(JST)投稿. 詳細を読む JP Blog
  • ISM非製造業PMIが米国インフレと成長懸念を再燃させ、市場は様子見
  • 米ドルはNFP発表後の安値水準に戻る、ゴールドは高値から下落
  • トランプ大統領が医薬品と半導体への関税を示唆も、米株式市場は小幅上昇

米経済への懸念が高まる

米国経済の力強さに対する新たな疑念が市場心理を悪化させ、数日前の脆弱な米雇用統計に続き、米ドルをさらに押し下げています。また新たな関税への懸念も、リスク選好を抑える要因となっています。昨日発表された米ISM非製造業PMIは、軟調な米経済指標の流れを引き継ぎ、7月は市場予想の51.5を大きく下回る50.1に低下しました。

先月のサービス部門の成長は殆ど見られず、米労働市場も当初の予想以上に急激に減速しています。これにより、トランプ関税が米国経済に悪影響を及ぼさないという考えは崩れつつあります。

しかし、今回のデータで最も深刻なのは景気後退そのものではなく、通常であれば、米経済を刺激するために、FRBによる利下げが期待されることです。しかし、今回のISM非製造業PMIでは、投入価格指数が2022年10月以来の高水準に急騰した一方で、雇用指数は50.0をさらに下回る水準に低下しました。これは、先週発表された米PCEインフレ率や非農業部門雇用者数のデータでも見られた、「物価上昇圧力の強まり」と「労働市場の弱体化」を裏付けています。

米ドルは安値付近で低迷、米財務省の入札に注目

スタグフレーションの状況下では、インフレ再燃の現実的なリスクがあるため、FRBによる利下げはより困難になります。9月の利下げ観測は、金曜日の米雇用統計を受けて一時はほぼ95%まで上昇しましたが、現在は約86%に後退しています。

それでも、米ドルは本日低迷しており、米ドル指数は主要通貨に対して、1週間ぶりの安値付近で推移しています。これは、昨日の米3年債入札の低需要を受け、本日は米債利回りが上昇しているにも関わらずです。

もし本日の米10年債入札や、明日の30年債入札でも需要が低調となれば、米利回りがさらに大幅上昇するリスクがあるかもしれません。

関税とFRBへの先行き不透明感が再浮上

米ドルのさらなる懸念材料は、トランプ大統領による新たなの関税脅威と、辞任するクーグラーFRB理事の後任にトランプ大統領が誰を指名するかという憶測です。トランプ大統領は昨日のCNBCのインタビューで、医薬品と半導体への分野別関税は導入予定で、「おおよそ今後1週間以内に発表する」と述べました。

医薬品分野への関税率は、低い水準から始まり、最終的には150%、あるいはそれ以上に引き上げられる見込みです。しかし、トランプ大統領は半導体に関する詳細は殆ど明らかにしなかった為、投資家の間では憶測が広がっています。

ただし、パウエルFRB議長の後任候補についてはより明らかに言及し、候補者は4人いると述べました。ベッセント米財務長官は、FRB議長には就きたくないと明言しているようですが、ウォーシュ元FRB理事とハセットNEC委員長は依然として有力な候補者となっています。

より短期的な見通しとして、トランプ大統領はクーグラーFRB理事の後任となる新たなFRB理事の人事が、週末までに発表される可能性を示唆しました。市場は、パウエル議長との対立が続く中、トランプ大統領が党派的な候補者を指名するかどうかを慎重に見極めようとしています。

米株式市場は反発

米株式市場は、こうした新たなリスクを概ね軽視しているようで、再びプラス圏に転じています。米先物は昨日の下落後、小幅上昇しています。ハイテク株はここ数日非常に不安定な動きを見せており、全般的に好調な決算見通しへの市場の懐疑的姿勢が頻繁に現れています。直近では、昨晩のAMDのまちまちの決算報告がその一例となっています。本日はディズニーとマクドナルドの決算に注目が集まるでしょう。

楽観的な見方の一因は、投資家が今後数週間での貿易戦争の一段の緩和を期待している点です。これはトランプ大統領がさらなる分野別関税を公言し、ロシアに対する二次関税を課す可能性があるにもかかわらず起きています。トランプ大統領はCNBCに対し、中国との高関税一時停止措置の延長合意が「非常に近づいている」と述べました。

一方で、日本とスイスの交渉担当者は関税引き下げへの新たな働きかけをしています。日本は自動車輸入関税の引き下げを、スイスはトランプ大統領が課した39%の厳しい関税率の引き下げを目指しています。

ゴールドは下落も、原油価格は反発

ゴールドは市場のムードがやや改善したためか、昨日記録した3,390ドル超の高値からはやや下落しています。ただしトレンドの転換とするには時期尚早で、米ドルが再び下落圧力を受ける場合には、短期的に再び上昇する可能性もあります。

リスク選好度の高まりが、最近の原油価格下落の回復を後押ししています。WTI先物は昨日、65ドルの大台に迫りました。トランプ大統領が間もなくロシア産原油に対して新たな制裁を公表するとの期待が高まっており、これが本日上昇を押上げています。この措置では、二次関税の導入、もしくはロシアの“影の船団”と呼ばれる石油タンカーへの制裁が予想されています。